深山州マンション管理士このことを理解していないマンション理事長やマンション管理士・管理会社フロントマンの多くが、多くの無駄を引き起こしています。

理事長の頼み方が下手・受け手側の捉え方がまずい、という話です。

例えば、先日とあるマンションの理事長からあったお問い合わせに『○○で困っている。今の管理規約には▽▽と書いてあるので、▼▼のように改定すればよいと思っているのだが、他にも改定が必要かどうか、自分は専門家でないのでお願いしたい。可能か?報酬はいくら?』といった、かなり具体的なオファーがありました。

マンション管理の現場(理事会や総会の場)でも、理事長からのこんな相談、ありませんか?
あなたが理事長なら、このような具体的な相談をすることがありませんか?


新人のマンション管理士や、管理会社のフロントマンを見ていると、たいていが
  • 可能です・了解しました
  • 難しいです
  • 報酬は○○円です
  • 頂いている費用(報酬)の中で対応します
  • 上司に相談します
と、『YESかNOか』という視点で回答します。

少し慎重なマンション管理士なら『具体的に管理規約をどのように変えたいのですか?』とか『納期はいつまでですか?』とか『管理規約の新旧対比表は必要ですか?』『総会での説明サポートもしましょうか?』
といった『ゴール』に関する質問をするでしょう。


でも、僕的には、両方とも初期対応としては『まったくのNG』です。
正しい『最初の回答』は

『なぜ、管理規約の改定が必要だと考えたのですか?』

です。
この理事長が『管理規約を変えなければならない』と考えるに至った『原点・動機・背景・事実関係』を聴くのが、一番最初にやるべきことです。


なぜって?
このケースにおける理事長からの『相談』は、実は『相談』ではなく『注文』だからです。


もしあなたが、頭痛が酷くて我慢ができなくなり、医者に行ったときに、どの様に相談しますか?
『頭痛が酷い。○○に原因があるから、▽▽の治療をしてほしい。』って、『注文』しませんよね?

まずは医者から『どうされました?』と聞かれて、『実は昨晩の○○頃から、■■のような症状が出て、今朝になった酷くなった』と、自分に起こった事実だけを話しますよね。
だって、単なる頭痛なのか、肩こりから来ているだけなのか、脳に腫瘍ができているのか、薬の処方で良いのか、検査が必要なのか、今すぐ入院するレベルなのか、つまり回答や提案を考えるのは医者だからです。

もし患者が『頭痛の原因は多分○○だから、薬を出してほしい』と『注文』して、医者が二つ返事で『はいわかりました』って薬を出したら、このように依頼する患者もアホですが、真に受けて薬を出す医者に不安を持ちませんか?そんな医者いませんよね?

患者の症状を正確にヒアリングし、原因を特定・推定し、治療方法を決めるのは、患者じゃなくて医者ですよね?
理事長の悩みを正確にヒアリングし、原因を特定・推定し、対応方法を提案するのは、理事長じゃなくてマンション管理士やフロント担当者ですよね?

相手の言うことを『注文がきた』と即『YES・NO』と回答して良いのは、飲食店の店員だけです。
『明太子とイカの和風パスタをお願いします』と『注文』されて『なぜそのパスタが食べたいのですか?』とは聞きませんよね(笑)

注文したお客様の顔を見て『いや、あなたの今の表情や声の調子、しぐさからすると、パスタではなくイカ墨のリゾットの方がよろしいですよ』と言ってくれる店員さんがいたら、僕的には非常に興味をそそられますが、99%の人は『は?』となりますよね。

パスタのオファー=『注文』です。
理事長からのオファー=『相談』であり、『客自身が、ゴールへのたどり着き方を理解していないで、自分の思い込みを添えて注文しているように聞こえるだけで、実は相談』です。


理事長から具体的な進め方などの意見も含めた『相談』が来たら『なぜそれをしたいのか』を良く聞き直すことがとても重要です。

経営コンサルタントである大前研一さんは『良きコンサルタントは質問力がずば抜けている』と言いますが全くその通りです。クライアントの相談や質問の『隠れた意図』をあなたが理解するまで、安易に『注文』を受けたり、答えを出してはならないのです。

これで安易に対応し、言われた通りの内容で正確な管理規約改正案を作ったとしても、実際に理事会や総会に諮ったとき『なぜ管理規約を改定する必要があるの?』『もっと検討することあるよね』と反論が出るか、何となく承認されたとしても『間違った(ズレた)ルールが合法化』されただけであり、将来に禍根や矛盾を残す可能性がでてきます。

理事長からのオファーを『注文』と受け取らず『相談』だと考え、理事長に質問を重ねていくと、新たな事実が出てきたり、理事長の本音がでてきたり、理事長の頭にもなかった潜在的な想いが見えてくるものです。
潜在的な想いは理事長本人も気づかなかったものです。

話しを深く聞けば聞くほど、
  • なぜ管理規約の改定が必要なのか?
  • 細則の改定や制定でも目的を達成できるのではないか?
  • ルール改定は必要なく、別のアプローチをした方が良いのではないか?
  • 理事長の思い過ごし(杞憂)ではないか?
  • 今すぐに改定する必要はないのではないか?
  • そもそも理事長の発想や考え方が間違っているのではないか?
  • 今のままがベターなのではないか?
  • 規約改定どころではない、大ナタを振るわないとダメなのではないか?

という仮説が出てきて『管理規約の▼▼を改定したい』というオファー自体がどこかへ飛んで行ってしまった、、、ということが、あって良いのです。

僕が理事長にヒアリング(質問攻めですね)すると、当初理事長が注文してきたこと(管理規約の▼▼を改定してほしい)と、僕からの回答や具体的な進め方が全然違うことが、とても多いのです。

それで良いのです。
大切なことは『理事長の注文を言葉通りに受け取って反応すること』ではなく『問題を解決すること』なのですから。
『頭痛が酷い。薬を出してくれ』と相談(注文)されて、『何言ってるんですか、即入院ですよ』という回答を出すのが、できるマンション管理士や管理会社の仕事なんです。


■目の前の理事長にもアドバイス(聞き方を変える)
マンション管理士や管理会社のフロント担当者に依頼するときは『注文』ではなく、医者や弁護士へ話す時のように『○○で悩んでいるのだけど、どうしたら良いと思う?』という『相談』から入ると、相手がまともなら、質問攻めされて、より間違いない答えにたどり着きやすくなります。
聞き方を変えてみてください。

聞き方を変えても良い助言が受けられない場合、相談した相手方の能力不足です。
「論理的思考力(※)不足」です。
マンション管理士を変えるか、フロント担当者の上司に相談しましょう。



深山 州(みやま しゅう)
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