いきなりですが、すでに複数ある理事長代行業務の実績の中から、最初に「恥ずかしい失敗事例」を話します。



■欲に負けて引き受けた「理事長職」
マンション理事長代行コラム2015年に東京都下のある、実需型(ファミリータイプ)小規模マンション(ここではA管理組合とします)の監事(ここではB監事とします)からお問い合わせを受けました。

「理事長のなり手がいない」がお問い合わせの動機でした。

「実需型(マンションに居住している区分所有者の割合が多い)のマンションからも理事長代行のニーズがあるのか」と想定外のお問い合わせに当時は驚いたものです。

当時、僕は「理事長代行ビジネス(プロ理事長派遣サービス)」を「理事長はおろか、理事のなり手すらいない」ような、マンションに居住していない区分所有者の割合が多い管理組合(賃貸比率の高いマンションや投資型マンション・リゾートマンション)、つまりは「管理組合(区分所有者)が主体となって話し合う土台のないマンション」からの受注を想定して作りました。

実需型のマンション管理組合では「理事会」機能があり、理事のやる気やモチベーションのある・なしはともかく、理事会という審議するための会議体が存在し、管理会社がそれをサポートしている以上「理事会のアドバイザーとしての年間顧問の需要はあっても、理事長そのものをアウトソーシングするような発想はないだろう」と見ていました。

そこで、B監事から「理事長職の代行依頼」の理由を聞いてみると、知的で冷静な語り口で、
・区分所有者の中からなり手がいないしやる気すらない
・管理会社が全く仕事をしない

と話すのですが、
・中途半端ではあるが、マンション管理をかなり勉強し知識は豊富である
・一応同じ屋根の下に住む住民を「やる気すらない」とバッサリ断罪する
・たとえ管理会社に不満があるにせよ「全く仕事をしない」と断言する
・不満におもう事例についての説明がやけに事細かく、すべて自分以外が悪いと言い切る

これらのことから、このB監事本人にいささか偏向した見方があることはわかります。

しかし、実際に理事会の場へ出席しても、たしかに理事長のなり手はいないし、他の理事も当社への委託に賛成してくれています。

どうも話の展開がいまひとつしっくりこないし、B監事の言動に引っかかるものがあったものの、僕の中で「実需型のマンション管理組合で理事長職を実践することは、様々な経験実績を積むチャンスである」とポジティブさが上回ったことや、当社が理事長職の仕事を適法にまっとうすればリスクそのものはないと判断したことで、理事長代行を引き受けることにしました。


やっぱりそういうことか!「理事長職」
当社が理事長職に就任し、担当マンション管理士が業務に当たるやいなや、早速B監事から様々な連絡が来るようになりました。
その連絡のすべてが「理事や居住者に対する不満を是正させるような依頼」「管理会社の諸対応に対する指示依頼」です。

また、担当マンション管理士からの報告を聞いて、すぐにわかりました。
・理事や区分所有者から、B監事そのものがモンスタークレーマーであることが知らされる
・管理会社のフロント担当者からも同様のことを知らされる
・B監事は自分にとって気に入らないことがあると「管理規約や細則」に加え「(自分なりの)一般論や(自分なりの)世間の常識」を盾に、区分所有者や理事の自宅へ直接訪問したり手紙等で追求する
・B監事の家族からも、上下左右の住戸に対し過剰すぎる生活音のクレームが頻繁に入る

一方で、理事や一部区分所有者と担当マンション管理士とでLINEグループを作ると、そこへB監事やその家族に対する不満が多数寄せられます。

理事や理事以外の区分所有者は、B監事がかなり脅迫的に迫ってくるのが恐ろしく、管理会社はB監事から高頻度かつ長時間拘束される対応に疲れ、両者がそれらの負担をすべて当社が負ってくれるくれることを願っていたことがわかりました。

B監事からは原理原則で言えば正論が多い反面、その言動に難があったり、持論を譲らない点が多く、「正しい・正しくない」以前の「話し合う土台」そのものが全く築けない状況でした。


役に立てないなら「理事長職」から身を引こう
当社は「区分所有者や居住者間の合意形成」を大切にしながら課題解決に導くスタンスでいますが、理事・区分所有者とB監事との溝を埋めることが全くできません。この点は力量不足と言われても仕方のない点です。

次第にB監事は当社に対し、物事が自分の望む方向へ進展しないことに対する怒りの矛先を向けるようになります。理事や区分所有者からは明確に当社への不満の声はありませんでしたが、外部から理事長を招聘しても、B監事からのアクションの何割かが当社へ向かったこと以外、何も変わらないことに対して、満足できる結果ではなかったはずです。

そして最後には、当社の採用を提案してくれたB監事が自ら「当社との契約終了と、元の区分所有者による理事会制度へ戻すこと、そしてB監事が自ら理事長に就任すること」を内容とする総会用の提案を理事会へ提起してきました。

理事からは議案を上程すること自体に反対の声があがりましたが、当社としては、当社が理事長職である以上「自らの契約が終了する議案を自ら総会へ上げることを認めない」ことがあってはならないと判断し、このB監事の議案をそのまま採用して総会へ上程しました。ただし、B監事が議案上程にあたり当社の業務について事実無根なことを並べ立てていたことについては、この議案の後ろに「理事長代行(当社)より反論」の形で掲載しました。

結局総会では、出席・委任状・議決権行使書の合計が採決のための定足数に足らず、議案そのものが流れ、当社の理事長代行としての契約が継続されることになりました。

しかし、採決のための定足数に足りなかったのは、B監事から目を付けられるのを恐れた一定の区分所有者が意思表示しなかったことで票が集まらなかった面が大きく、このままでは当社が理事長として残り続けても、結局何も改善することができないことは明らかでした。

当社としては、これ以上A管理組合から報酬を頂いても役に立てないなら、せめて当社が自ら身を引くことで、当社への報酬という無駄をなくすことがA管理組合に対する誠意であろう、と判断しました。

そこで、上述の総会で流れたB監事からの提案について、改めて臨時総会を開催し、今度は当社が積極的に支援する形で票を集めて承認を得、当社の理事長代行としての仕事を終了させていただきました。


■失敗から学ぶ
結果として、当社はA管理組合の財産を毀損するようなことはもちろんありませんでしたが、少なくとも実需型マンションのオーナーである区分所有者の「マンションにおける住み心地」や「資産としての価値」を高めることには全く貢献できませんでした。

これからは区分所有者間で背きあうことから、お互いの理解に務め合い、理事会を中心とした住み良いマンションになることを願うしかありません。

以上、この時点における当社の限界を示した恥ずかしい話です。


一方で、当社としては、失敗=「多くの学び」という財産が残りました。
実需型のマンション管理組合で理事長職を実践することで、様々な経験実績を積むことができましたし、「失敗事例」を受け止めて足りないもの=改善点がよくわかりました。

詳しくは割愛しますが、おかげさまで今では実需型マンションの理事長代行を低リスクでお引き受けすることができるようになり、また受託後も「一皮むけたプロ理事長」としてお客様(管理組合)へ貢献できるようになっています。

もともとマンション管理士や一級建築士等のプロ集団として理事会顧問的な立ち位置での支援(コンサルティング)には実績と自信がありますから、自ら理事長を実践する経験をプラスして、ますます役に立つことができるマンションが広がる確信につながる、得難い経験でした。

ただ、、、合意形成を大事にする当社としては、あのA管理組合の「実需型マンションにおける人間関係の修復」ができなかったことだけは、今でも悔やまれます。
この想いだけは忘れずに、前進するしかありません。

深山 州(みやま しゅう)

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