(続き)韓国の大学生から「卒業論文で日本のマンションにおけるペットクラブ事情」について質問がありました。回答と合わせて、若干手直ししたものを記載します。



ーーー回答の考察ーーー

※ここからは私の考察です。

■日本のマンションでは、2000年に入ってからペット飼育可能なマンションが増加し、マンション内でのペット飼育者の増加に比例して居住者間のトラブルが増加しました。

■日本人がマンション暮らしに求める点の一部に「木造住宅に比べて壁がコンクリートで遮音性に優れ、静かに暮らすことができる」「住民同士のつきあい(交流)がなく、心理的に楽である」という面があります。

■そのため、近隣住戸からのペットの鳴き声に過敏に反応する居住者が多く、トラブル(苦情)になりやすい面があります。なお主な苦情の内容は、「鳴き声(犬)」「臭い(犬・猫)」「汚れ(廊下や階段、エレベーター内、敷地での糞尿やベランダでのブラッシングの毛)」「ルールで決められた大きさや数を上回るペットを飼っている」といった内容で、「動物が嫌いな居住者」からのお問い合わせが多いと考えられます。
ちなみに「犬に噛まれた・猫に引っかかれた」といった直接的な事故はほとんどありません。
マンション ペット飼育 トラブル 苦情

■世の中の流れとはいえ「ペット飼育可能なマンション」の増加とともに増えるトラブルを低減するため、国の省庁(国土交通省)が「ペット飼育に関するルールを作ることが望ましい」と見解を出し、デベロッパーが「ペット飼育に関する細則」というルールを新築時から盛り込むようになりました。

■ペットクラブが存在しないマンションでは、ペット飼育に起因する苦情は、(管理会社を経由して)管理組合(所有者の団体)の役員会(理事会と言います)へ届きます。そもそも日本人の気質として、苦情を直接本人に言うことに抵抗を示す(直接苦情を言って人間関係が悪くなるのは避けたい・逆切れされるのが怖い)人が多く、「誰かに対処してもらいたい」と考える国民性があるように思います。

■理事会はペット飼育者に対して是正を促しますが、どうしても改善しない場合、管理組合の集会を開き、居住者に引っ越しを命ずるなどの決議を取ることになります。

■ただし日本では、マンションを含む不動産の所有者に対する権利は法律で強力に認められており、管理組合の決議があっても、ペット飼育者から訴訟されると負けることがあります。「ペットのために複数の居住者が継続的に迷惑を受けており、マンションから引っ越しをしてもらうか、強制的に売却してもらう以外、問題を解決する方法がない」と裁判所が判断した場合に限り、退去が命じられることになります。

■また、理事会メンバーはマンションの所有者が毎年持ち回り(順番)で就任するルールであり、多くのマンションではその任期が1年(長くて2年)であり、自分の任期のうちに面倒な問題に関わりたくない、と考えがちです。また、ペット飼育者にとってペットは家族同然であり、簡単に引っ越してもらうことも、もちろん殺処分させることもできません。

■そこで、ペット飼育に起因するトラブルを解決するよう理事会へ持ち込まれる前に、ペット飼育者で組織を作ってもらい、ペットに起因する居住者からの苦情への一次対応をこの組織に行わせることを「実質的な目的」として、新築時からペットクラブを設定するマンションが増えてきました。回答2で書いたような「ペット飼育者間の交流、情報交換その他コミュニティ形成」というのは極めて表面的で、実際にペットクラブが存在するほとんどのマンションでペットクラブは「飼育者(クラブのメンバー)同士でルールやマナーを守らせる」「居住者から苦情が来たらペットクラブ間で解決させる」ような「居住者と理事会との緩衝機関」としての役割が求められています。

■そもそもペットには犬、猫、爬虫類、両生類、昆虫類、鳥類、魚など種類は様々で、種類が異なるペットの飼育者同士を一つの組織のなかで交流させることは困難ですし、種類の異なる相手のペットに関心を持つことはほとんどないと考えられます。またペットは「自分の家族」であり「相手の家族」に興味を持たないことは普通の感覚とも言えます。このような中で強制的に加入させられるペットクラブへ能動的に参加する飼育者はほとんどいないのが実情です。

■ペット飼育者同士の交流は「お互いに外を散歩で歩かせることになる犬の飼育者同士が、個人的に繋がりを持つ」以上に発展することはほとんどないと考えられます。
このような背景から、ほとんどのマンションでペットクラブは形骸化しています。

■新築分譲時に「ペット飼育は禁止」のマンションが入居後に「飼育可能」のマンションへと変更することや、その逆にすることは、所有者の合意形成が必要ですが、ペットにまつわる話し合いは、ペットが好きな方と嫌いな方とで感情的な反目になることが確実であり、現実的には困難です。

■私が管理組合の運営コンサルティングをしていたマンションでは、形骸化したペットクラブを廃止(解散)するかわりに、ペット飼育者のルールやマナーを強化し、違反者に対する理事会の権限も強化するルール改定を行った事例があります。しかし、ペット飼育可能なルールを廃止するマンションは極めて少なく、形骸化したペットクラブが存続するマンションがほとんどなのが実情です。

(続く)

深山 州(みやま しゅう)
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