東京・台東区のキャピタルプラザ浅草管理組合様で、管理規約の全面改定のご相談からスタートし、最終的に「憲法前文」ならぬ「規約前文」を制定した時の日本経済新聞記事です。2013年です。

管理組合の活動が活発で、理事間の合意形成もスムーズで、住みやすく資産価値が守られやすい典型的なマンションです。

日本経済新聞_マンション管理組合と理念・ビジョン

この6月の通常総会で、この「管理規約前文」を改定しました。



今まで以上に地元・浅草の歴史・文化・伝統に貢献し、地域と共生するマンションであろうと。
来るべき震災に備え、住民同士が助け合える管理組合であろうと。


前文を通じて、マンションの進むべき方向性を自ら示し、宣言した、ということです。



なぜマンション管理組合に「道標」がないんだろう

どうしてマンションには「組合員や住民がつながり一つの方向へ向かうための道標がないんだろう」

マンション管理業界を志して10年間、漠然と思っていたその疑問を解決するために具現化したのが、こちらのマンションで言えば

「管理規約『前文』」

でした。

第1条から始まる「管理規約」の前に入れるから「前文」です。
日本国憲法にも、1条、2条、、、の前に前文がありますよね。



うちのマンションはどういうマンションでありたいのか?
住民とともに歩みたい方向はどこなのか?
どうしても共有したいことは何なのか?



あれはダメ、これは禁止、という具体ルールは、第1条以下の本文や各細則に任せておけば良い。


でも、そもそもの「拠りどころ」はどこにあるの?
マンション管理組合には拠りどころがない、と気づいたのが、こちらのマンションで理事の皆さんと管理規約改定の意見交換で話がなかなかまとまらない時でした。




そうか、道標がない。



では、道標から作りませんか?と。

理事長にご理解いただき、理事の皆さんの共感があって、先に道標(前文)を作りました。
第○条とか○○細則とかはその後で。




管理規約に前文(道標)ができた今。

そして今。

管理組合として課題が発生したり、マンション内でトラブルがあったとき、この前文の精神に照らして、どう対処するか、、、以前より理事会での意思決定がブレなくなっています。

総会へ提案する議案も、前文の精神に沿ったものばかりです。

また、1階の店舗、2階以上の住宅との価値観の違いも、お互いに認め合いながら、全体最適になるように議論して答えを導き出す環境にもなりました。

住戸と事務所店舗が混在する複合マンションの多くで起こりうる対立が、こちらではなくなりました。


そして、物事が決まるプロセスが非常に良いんです。
判断の軸があるのとないのとでは大違い。

理事会のメンバーが変わった時に、それまでの運営が安定的に守られるのか、ガラッと変わるリスクがあるのか。管理組合が運営上不安定な組織なのは、理事長の考え一つで良くも悪くも道が変わるからです。


そういうリスクが、こちらのマンションでは、管理規約前文という道標を得て、かなり減ったと確信しています。




道標をわざわざ管理規約に入れる「2つの意味」


ひとつ目は、法的安定性です。

管理規約に前文を入れる、ということは、総会で全組合員(議決権)の3/4以上の賛成が必要で、かなり高いハードルです。

逆を言えば、このハードルをクリアして制定されれば、制定された前文を覆したり内容を変更するのも3/4以上の賛成が必要であり、改定や廃止するためのハードルが上がります。これが法的安定性の意味です。

よく「理事会運営規則」とか「行動指針」とか「内規」などで運営の道標を作っている管理組合を見かけますが、すべて法的安定性に欠けます。つまり「細則」は総会で出席議決権数の過半数の賛成で改定や廃止が可能ですし、「内規」に至っては、理事会内部の決め事=理事会の決議で変更や廃止が可能となってしまいます。

代替わりした理事長の性格や考え一つで意味がなくなるリスクを、細則や内規は持っています。

一度決めたら、簡単に取り下げられないくらいが、マンション管理組合の道標にはちょうど良いのです。



そしてふたつ目は、「責任と覚悟」です

憲法改正は、今でこそ第9条改正で盛り上がっていますが、それでも70年守り続けてきただけの「重み」言い換えれば「滅多なことで動かしてはならない責任」があります。

管理規約の前文(道標)も、それくらいの重みがあって良いし、逆に制定を提案する側は、いい加減で軽いものを作って欲しくありません。

作り手(理事会)にも、受け手(組合員)にも、「自分たちで作った道標を、みんなで守り育てよう」という覚悟です。



コンサルとしても、管理会社としても、やることは同じ

課題を持ったマンション管理組合の中に入って、解決のためのアイデアやきっかけ(動機)を作るのが私のライフワークで、その一つが、こちらのマンションでは前文作りでした。

しかし、いくらアイデアやきっかけ作りができても、それを受け入れてくれなければ、何の意味もありません。

その意味で、上記で紹介した前文制定のような「目に見えない」「成果がすぐに現れない」提案を受け入れるためには、管理組合が合意形成でよほど困っているようなタイミングがあるか、理事の中に先見の明や理解力の高い方がいなければなりません。

件のキャピタルプラザ浅草管理組合様では、当時の管理組合の運営状況、理事長の高い見識と深い理解、理事の皆さんの共感と情熱とがあって、はじめて動き出すことができました。

私が用意した素案を、理事の皆さんが自分たちの言葉で変えていってくださった前文には、実に深みと重みがあります。
 

この前文を読みなおして胸が熱くなるなんて、提案者冥利に尽きるじゃありませんか。



ということで、どんなマンションでも「道標」作りが提案ができるわけではありません。
平和で表面的に問題が見えないマンションに提案してもまったく通じませんし、「オタクは自分の仕事を作るために提案してるんじゃないの」とまで罵倒されたこともありました。

どんな提案にも、管理組合にあったタイミングがある、ということです。


今後もコンサルとして、そして管理会社の代表として、個々のマンションをよく見て、提案してゆきます。

絶対にお勧めの取り組みですよ。

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マンション管理・修繕コンサルタント メルすみごこち事務所

マンション管理会社 クローバーコミュニティ

《管理組合の良し悪しが「住み心地」と「不動産価値」に影響を与える時代を創る》

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